よくある質問
裁判例
上司の嫌がらせ、いじめで労災認定
大阪高裁平成29年9月29日判決
遺族補償給付金等不支給処分取消請求控訴事件
事案
24歳 男性 自殺。
争点
うつ病の発症
発症したとして、うつ病は業務に起因して発症したか。
経緯
自殺前2カ月に、上司のひどい嫌がらせ、いじめがあった。
これにより強い心理的負荷がかかった。
労災請求で否定。
厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、
- ①対象疾病を発病していること
- ②対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
の要件を述べ、いずれも満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うものとされています。
認定基準では、②の要件を判断する際、特別な出来事がない場合には、別表の出来事で心理的負荷の程度が「強」「中」「弱」の出来事がないかチェックします。
その際、ノルマ、退職強要、事故などの出来事も表に記載されています。その中で、「ひどい嫌がらせ、いじめ」も「強」の出来事と分類されています。
その例として
「・ 部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
・ 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
・ 治療を要する程度の暴行を受けた」
と挙げられています。
裁判所の判断
一審は、個別の出来事について、「ひどい嫌がらせ、いじめを受けた場合」に該当するとはいえない、他の出来事も客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強い心理的負荷があったとまでは認められない」として、業務と本件疾病発症との間に相当因果関係があると認めることはできないとし、業務上の死亡にあたらないとした処分は適法と判断。
本判決
総合的な判断で、各出来事による心理的負荷によって、自殺の直前頃、うつ病を発症したと認定し、相当因果関係があると判断。過去2カ月に、業務による相当程度の心理的負荷
発症の1~2日前に、業務による強い心理的負荷がかかった
としました。
業務起因性の判断に際し、認定基準の各要件を満たすかどうかではなく、間接事実の総合検討で判断していると分析されています。
なお、判決文では、総合検討の後に、認定基準の要件も満たすとも述べ、そちらの視点からも認定しています。
判決文抜粋
B:被災者
D:上司
Bがしてきた空手について,「お前がやっている空手は,武道家を気取って実戦に使えない空手やから,そんなんして何の意味があるねん。」,「お前の空手は,なんちゃって空手だ。」などと言って,Bの空手を否定し,ばかにする発言をした。
第2回巡回に出発する間際(25日午後10時前頃),Dが,Bに対し,個人目標(隊員が作成しC班長に直接提出すべきもの)の進捗状況について尋ねたところ,Bは,「もう班長に出しました。なんでDさんに聞かれないといけないんですか。」と答えた。Dは,従前,個人目標について,Bから相談を受けBに対して作成のアドバイスをしていたため,作成した個人目標をC班長に提出する前にはBから相談があると思っていたにもかかわらず,BがDに相談することなくC班長に個人目標を提出したことに立腹し,「それやったら,俺と仕事の話は一切せんでええ。」とBを怒鳴りつけた。そして,Dは,Bが肩を揺すって歩いているのを見て,Bに対し,「歩き方が気に入らない。」,「道場へ来い。道場やったら殴りやすいから。」と大声で言った。Dが一方的にBを怒鳴りつけている間,Bは黙って聞いているだけであった。
B及びDは,Dがパトロールカーを運転し,Bが助手席に乗って第2回巡回に出発した。
運転席に座ったDは,助手席に座ったBがタコメーターをセットしようとしたところ,Bに対し,「何もするな。全て俺がやる。」と怒鳴りつけた。そして,Dは,タコメーターのセット・処置,基地局との無線対応など,助手席の乗務員がすべき業務を自ら行った。そのため,Bは,第2回巡回の間,終始無言で助手席に座っており,巡回に伴う具体的業務を何ら行わずにいた。
第2回巡回後,Dよりも先に事務所に戻ったBは,Dから何もするなと言われていたものの,Hから巡回終了後の書類整理を行うように促されたことから,書類整理を開始した。遅れて事務所内に入ってきたDは,上記のBの様子を認め,激怒し,「何もするな言うたやろ。殺すぞ。」と大声で怒鳴りつけた。これに対し,Bは黙っていた。その様子を見ていたC班長は,Dを事務所外に連れ出し,Dに対し,「言い過ぎや。Bが怖がっているやないか。」などと言って注意した。
Hは,Dから怒鳴られたBの様子を見て,落ち込んでいるように思われたので,第3回巡回はDとペアを組ませるべきではないと考え,C班長に対し,BとDのペア替えを提案した。C班長は,その提案に対し,一旦はペア替えを検討したものの,D及びBの様子がいずれも落ち着いていることを踏まえ,今後も一緒に仕事をしていくことを考えると,今日だけはペア替えをしない方がよいと考え,Bに対し,当日だけのペア続行を打診し,Bもこれに同意した。
Bは,第3回巡回中,高速道路上に落下物を発見したため,落下物を回収しようと急ブレーキをかけた。Dは,その時,後方にトラックが追従している状況にあったことから,Bに対し,「こんなところでこんなもん拾う必要はないだろう。」などと大声で注意した。
Bは,第3回巡回中,前開集約(基地)に立ち寄った際,そのトイレで,過呼吸になり,しばらくしゃがみこんだ。
Dは,Bに対し,第3回巡回中に起こった出来事について,文書にまとめるように指示し,Bは,これに従い文書を作成した。Dは,最初の頃,パソコンの前に座って文書を作成しているBの背後に立ち,Bに対し,指示を出し訂正をさせていた。この時,Bは,落ち込んだ様子で顔色も青ざめていた。Iは,Dが席を外した時に,Bから作成した文書を見せられ,Bに対し,「これでいいん違うか。あまり気にしないように。」と言った。
その後,Bが作成した文書をDに提出したところ,Dは,その文書を見て,周りに他の隊員らがいる前で,Bに対し,「小学生の文書みたいやな。」と大声で言った。
2 労災保険法にいう業務起因性について
(1) 労災保険法7条1項1号にいう「労働者の業務上の死亡」とは,労働者が業務に基づく負傷または疾病(これらを併せて,以下「疾病等」という。)に起因して死亡した場合をいい,業務と上記疾病等との間には相当因果関係のあることが必要であり,その疾病等が原因となって死亡の結果が発生した場合でなければならないと解すべきである(最高裁昭和50年(行ツ)第111号同51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事第119号189頁参照)。
そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものと解すべきである(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁,最高裁平成7年(オ)第1205号同9年2月25日第三小法廷判決・民集51巻2号502頁,最高裁平成5年(行ツ)第85号同9年11月28日第三小法廷判決・裁判集民事第186号269頁,最高裁平成16年(受)第672号同18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁参照)。
(2) また,精神障害の業務起因性の判断について,厚生労働省は認定基準を策定しているところ,これは行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定められたもので,裁判所を法的に拘束するものではないが,精神医学,心理学及び法律学等の専門家により作成された平成23年報告書に基づき,医学的専門的知見を踏まえて策定されたものであり,その作成経緯及び内容等に照らして合理性を有するといえるから,精神障害に係る業務起因性を判断するに当たっても,これをも参考にして行うのが相当である。
3 争点についての判断
(1) 前記前提事実及び前記1の事実によれば,次のとおり認定判断することができる。
ア Bに業務による強い心理的負荷が掛かっていたか
(ア) 本件夜勤前の出来事
a Bのしていた空手に関する発言(出来事②)
(a) 前記1のとおり,Dは,4月ないし5月頃,Bに対し,複数回,Bのしていた空手を否定し,ばかにする発言をしたものである。
(b) ①Bは,長年にわたって練習に打ち込んで習得した自らの空手について,特技として誇りを持っていたこと,②Bは,Dの前記(a)の発言により落ち込み苦悩していることを,G,E,I,Hらに対し,度々打ち明けて相談し,さらに,巡回のペア編成を担当するHに対しては,Dの上記発言が辛いとして,Dとのペア巡回を極力外してほしいと頼んでいたこと,これらに照らせば,Dの前記(a)の発言によって,Bには,一定の心理的負荷が掛かっていたというべきである。
b 「道場へ来い。」などの発言(出来事③)
(a) 前記1のとおり,Dは,4月中旬頃ないし5月中旬頃,Bに対し,複数回,「道場へ来い。」と言って,空手道場に誘ったものである。
(b) そして,前記1のとおり,①Bは,前記aのとおり,Dの空手に関する発言によって,辛いと感じ悩んでいたこと,②Dの上記発言は,組手を「寸止め」で行う,Bのしていた伝統空手について,実戦に使えない空手であるとして否定するものであること,③Bは,自らの伝統空手の組手と極真空手の組手の違いを熟知しており,極真空手を習得し,かつ,職場における自らの上司に当たるDと,極真空手の組手を行うことになった場合,「ボコボコにされる。」と感じていたこと,④Bは,Dの前記aの空手に関する発言や,Dの仕事面でのBに対する厳しい言辞によって,辛いと感じ,Dから嫌われていると思い,Dに対する苦手意識を抱いていたこと,⑤Bは,Jや両親に対し,Dから空手道場に来るように誘われているが,断っている旨の話をした際,「道場に行ったら,組手で,ボコボコにされる。」などと言い,Dのことを怖がっている様子であったこと,⑥Bは,26日昼頃にも,M課長代理に対し,4月後半頃以降Dから「道場へ来い。」と誘われており,その誘いについて「道場に行ったら,組手で,ボコボコにされる。」と思っていた旨述べたこと,以上の事実が認められるのであり,これらに照らせば,Dの前記(a)の「道場へ来い。」との発言と,Dの前記a(a)の空手に関する発言が相俟って,これらによって,Bには,業務による相当程度の心理的負荷が掛かっていたというべきである(以下,上記各発言を併せて「本件夜勤前の出来事」という。)。
(イ) 本件夜勤時の出来事
a 第2回巡回前の言動(出来事⑦)
(a) 前記1のとおり,Dは,第2回巡回に出発する間際,BがDに相談することなく個人目標をC班長に提出したことに立腹し,「それやったら,俺と仕事の話は一切せんでええ。」とBを怒鳴りつけ,さらに,Bが歩いているのを見て,Bに対し,「歩き方が気に入らない。」,「道場へ来い。道場やったら殴りやすいから。」と大声で言ったものである。
(b) Dの前記(a)の言動は,自らの怒りの感情を爆発させ,Bを怒鳴りつけ,その内容も仕事の話を一切しないように言うなど理不尽なものであった。そして,前判示のとおり,従前の経緯等から,DがBに対して「道場へ来い。」と言うことは,Bを怖がらせる行為であったところ,Dは,前記(a)のとおり,「道場やったら殴りやすいから。」と加害の意図を有することをも示している。
前記1のとおり,Dが一方的にBを怒鳴りつけている間,Bは黙って聞いているだけであったが,これは,DがBの上司であり,かつ,前判示のとおりBにとって怖い存在であったことから,Bの心理状態は,反論,反発のできるような状態でなかったことによると考えるのが合理的である。
これらに照らせば,Dの前記(a)の言動によって,Bには,業務による相当程度の心理的負荷が掛かったというべきである。
b 第2回巡回時の言動(出来事⑧)
(a) 前記1のとおり,Dは,第2回巡回時,Bに対し,「何もするな。」と怒鳴りつけ,Bに同巡回の際に何も仕事をさせなかったものである。
(b) Dは,やり甲斐のある仕事と思って本件会社における仕事に前向きに取り組んでいたBに対し,自らの怒りの感情を爆発させ,「何もするな。」と怒鳴りつけ仕事をさせなかったものであり,それは,極めて理不尽な言動であり,Bの労働者としての職業上の人格を踏みにじり,否定する行為といっても過言ではなく,これが,嫌がらせ,いじめに当たることは明らかである。
そして,Dの前記(a)の言動は,単発的に行われたものではなく,Dの第2回巡回前の言動(前記a)があった直後,連続的に行われたものであり,その時のBには,Dの第2回巡回前の言動により掛かった心理的負荷による影響が減少することなく残存していたと考えられる。このことからすれば,Dの前記(a)の言動によりBに掛かった心理的負荷は,それが単発的に行われた場合より強いものとなったとみるべきである。
以上によれば,Dの前記(a)の言動によって,Bには,業務による相当程度の心理的負荷が掛かったものと認められる。
c 第2回巡回後の言動(出来事⑨)
(a) 前記1のとおり,Dは,第2回巡回後,事務所において,巡回終了後にすべき書類整理を始めていたBの様子を認め,激怒し,「何もするな言うたやろ。殺すぞ。」と大声で怒鳴りつけたものである。
(b) Dの前記(a)の言動は,自らの怒りの感情を爆発させ,Bを怒鳴りつけたものであり,極めて理不尽な言動である。
のみならず,「殺すぞ。」と怒鳴りつけた行為は,文字通り殺人行為が実行されるとの恐怖を相手方に抱かせるものとまではいえないが,BとDの従前の人間関係,本件夜勤におけるそれまでの出来事を含む具体的状況に照らせば,殴る蹴るなどの危害が加えられるかもしれないという畏怖の念ないし不安感をBに抱かせるに足りる行為であったということができる。Dの上記言動がなされた場所が他の隊員がいる事務所内であったことは,上記判断を左右するものではない。
そして,Dの前記(a)の言動は,単発的に行われたものではなく,Dの第2回巡回前の言動(前記a),第2回巡回時の言動(前記b)があった直後,連続的に行われたものであり,その時のBには,Dの上記各言動により掛かった心理的負荷による影響が減少することなく残存していたと考えられる。このことからすれば,Dの前記(a)の言動によりBに掛かった心理的負荷は,それが単発的に行われた場合より強いものとなったとみるのが合理的である。
以上によれば,Dの前記(a)の言動によって,Bには,業務による強い心理的負荷が掛かったものと認められる。
d 「第3回巡回時」及び「第3回巡回後,本件夜勤終了まで」の各言動(出来事⑩⑪)
(a) 前記1のとおり,Dは,第3回巡回の際,「パーキングエリアでの不審車対応」及び「落下物の処理」の関係で,Bに対し,厳しい注意指導をした。また,Dは,第3回巡回後,Bに対し,第3回巡回中に起こった出来事について,文書にまとめるように指示し,Bに文書を作成させたところ,Bから作成した文書の提出を受けた際,周りに他の隊員らがいる前で,Bに対し,「小学生の文書みたいやな。」と大声で言ったものである。
(b) 前記1のとおりの具体的状況に照らせば,Dの前記(a)の言動のうち,第3回巡回の際にした注意指導について,正当な指導の範囲を超えるものであったとはいえない。また,Dの前記(a)の言動のうち,第3回巡回後,Bに文書を作成させたことは,その年の4月から導入されたOJTの一環としてなされたものであり,業務指導の範囲を逸脱するものということはできない。
しかしながら,前記1の事実によれば,①Dの前記(a)の言動は,それぞれ単発的に行われたものではなく,Dの第2回巡回前の言動(前記a),第2回巡回時の言動(前記b),第2回巡回後の言動(前記c)があった直後,連続的に行われたものであること,そのため,その時のBには,Dの上記各言動により掛かった心理的負荷による影響が減少することなく残存していたと考えられ,Dの前記(a)の言動によりBに掛かった心理的負荷は,それが単発的に行われた場合より強いものとなったと考えられること,②Bは,第3回巡回中,トイレで過呼吸になりしばらくしゃがみこんでいたこと,③Bは,第3回巡回を終えて事務所に戻った時,かなり落ち込んでいる様子であり,一人で下を向いて座っていたところ,Eから声をかけられたが,「駄目です。もう無理です。」の一点張りであり,精神的に追い込まれた状態にあったと考えられること,④Bは,第3回巡回後,背後に立ったDから訂正指示を受けながら,文書を作成したところ,その時のBは,落ち込んだ様子で顔色が青ざめていたこと,⑤Dは,Bがそのようにして作成した文書の提出を受けるや,周りに他の隊員らがいる前で,Bに対し,「小学生の文書みたいやな。」と大声で言ったものであり,そのような人格の否定につながるような侮蔑的な言辞で侮辱されたBが強い屈辱感等を抱き,惨めな気持ちであったことは容易に推察されること,⑥Bは,本件夜勤終了後,事務所において行われたミーティングの時,ひどく落ち込んでいる様子であり,C班長に対し,「きついです。何をやっても否定されて何をやっていいか分からない。」と言って,28日以降しばらく休みたい旨の申出をしたこと,以上の諸点を指摘することができる。
これらによれば,Dの前記(a)の言動によって,Bには,業務による,相当強度の心理的負荷が掛かったものと認められる。
e 前記aないしdによれば,Dの前記aないしdの言動によって,Bには,業務による強い心理的負荷が掛かったことが認められる(以下,上記各言動を併せて「本件夜勤時の出来事」といい,本件夜勤前の出来事と本件夜勤時の出来事を併せて「本件各出来事」という。)。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,Bには,4月から本件夜勤前までの約2か月間に,本件夜勤前の出来事によって,業務による相当程度の心理的負荷が掛かったところ,さらに,5月25日から26日までの間に,本件夜勤時の出来事によって,業務による強い心理的負荷が掛かったものというべきである。
b 前記1の事実及び前記a(うつ病の診断基準)によれば,Bには,26日ないし28日午前2時頃,うつ病において最も典型的な症状である(Ⅰ)抑うつ気分,(Ⅱ)興味と喜びの喪失,及び(Ⅲ)易疲労性の全て,さらに前記の他の一般的な症状のうち,②自己評価と自信の低下,③罪責感と無価値観,④将来に対する希望のない悲観的な見方,⑤自傷あるいは自殺の観念や行為,⑦食欲不振の五つの症状が存在し,その多く(上記(Ⅰ),(Ⅱ),②,③,④及び⑤)が重症であったということができる。Bについては,症状が約2週間持続したとの事実はないが,精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F32.2)については,症状が極めて重く急激な発症であれば,症状の持続が2週間未満でもこの診断をつけてよいとされている。
そうすると,ICD-10診断ガイドラインにおけるうつ病の診断基準に照らせば,Bの26日ないし28日午前2時頃の状態は,精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F32.2)と診断するための上記診断基準を満たすものであったというべきである。
(2) 前記(1)の事実関係を,因果関係に関する前記2(1)に説示した見地に立って総合検討すると,次のとおり認定判断することができる。
①Bには,4月から本件夜勤前までの約2か月間に,本件夜勤前の出来事によって,業務による相当程度の心理的負荷が掛かったところ,さらに,5月25日から26日までの間に,本件夜勤時の出来事によって,業務による強い心理的負荷が掛かったこと,②専門部会意見書は,「Bは,自殺直前には,ICD-10の「F3 気分(感情)障害」を発症していた可能性が考えられる。」としていること(なお,うつ病は,ICD-10のF3に分類される精神障害である。),③Bの26日ないし28日午前2時頃の状態は,精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F32.2)と診断するための診断基準(ICD-10診断ガイドラインにおけるうつ病の診断基準)を満たすものであったこと,④重症うつ病エピソード(F32.2)を含む「F3 気分(感情)障害」は,業務に関連して発病する可能性があるとされている精神障害の一つであること,⑤Bは,本件自殺当時,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥っていた可能性が高いこと,⑥本件において,本件各出来事のほかには,Bが精神障害を発病する原因となる可能性のある,「業務以外の心理的負荷に係る具体的事実」や「Bの個体側要因に係る具体的事実」の存在はうかがわれないこと,以上のとおりの前記(1)の事実によれば,Bは,本件各出来事による心理的負荷によって,本件自殺の直前頃,うつ病を発症したことを推認することができる。













